阿蘇グリーンストック理事長 松嶋和子
阿蘇の草原は、雄大な景観として広く知られていますが、一説には一万年以上、また文献上でも千年以上にわたり、阿蘇に暮らす人々の手で守り続けられてきた“生きた文化”であります。その象徴である野焼きは、単なる草原維持の手法ではなく、地域の誇りや知恵が込められた営みでもあります。
これらの営みの中心にあるのは、阿蘇に住む皆さまお一人おひとりの静かな努力です。それぞれが自らの立場の中で、できる限りの力を尽くし、誰に知られることもなく、冬の寒空の下での野焼き、晩夏の炎天下での防火帯づくりを、途切れることなく毎年積み重ねてきました。その姿に私は、阿蘇に暮らす方々の誇りと責任、そして未来に向けた覚悟を感じています。
阿蘇に住む皆さまが、時代を超えて一隅を照らし続けてこられたからこそ、今、私たちの目の前に広がる美しい草原があるのです。この草原は、景観的な価値だけでなく、水源涵養という極めて重要な機能も担っており、九州全域の生命の源を育む存在でもあります。降った雨が草原の土に染み込み、やがて清らかな水となって地域の川や地下水に流れていく――まさに阿蘇は、水のふるさとです。
この基金が、そうした阿蘇を守る人たちの営みを支え、努力の光を絶やすことなく未来へと継承する架け橋となることを、私は心から願っております。
さらに、基金設立にあたり、熊本県ならびに九州の皆さまには、どうかこの草原を「地域の宝」として捉え、今後とも温かく、継続的なご支援を賜りますようお願い申し上げます。阿蘇の方々が灯してきた一隅の光を、県内外の皆さまとともに、より大きく、より明るく育んでいけることを願っております。